旧い一冊を引っ張り出してきた。平成15年3月発行の「文芸春秋臨時増刊号」で、『桜―日本人の心の花 前篇書下ろし93人の桜ものがたり』。表紙画が私の愛して已まぬ有元利夫の代表作「花降る日」であったが故に求めたものだが、読んでいくと、誌代1,000円はニトリのコピーではないが“お値段以上”!

その中で、歌人の前登志夫が取り上げている

「吉野山 去年(こぞ)の枝折(しおり)の道かへて まだ見ぬ方の花を訪ねむ」

の歌に心止めた。桜にまつわる数多の歌を詠んだ西行の一首である。

山歩きの目印に小枝を折ったかどうかは知らないが、今年は道を変え、まだ見ていない辺りの花を尋ねてみようという意味のようだが、『去年の枝折』という言葉が、なんとも心惹かれる。

ここで前は、『私たちの人生も“去年の枝折”の積み重ねであろう』と語る。

なるほどそうか! 去年の枝折を手掛かりに、まだ見ぬもの・ことを求めて今日を生きている私がここにいる。