『カンブリア宮殿』『ガイアの夜明け』など、ここ数年、さまざまなイノベーション戦略のあり方や、それを進めてこられた方々の業績と人となりを紹介する番組が目につきます。

ここでお話しするのは、その一つ『ルソンの壺』です。つい先ごろ放映されたその番組の中で、私の心に響いた、というよりグサッと突き刺さった言葉をご紹介できたらと思います。消火器メーカーMの社長さんの言葉です。

知らなかったのですが、消火薬剤というものは粒子状になっていて、その一つひとつは、特殊薬品でしか溶解できない物質でコーティングされているそうなのです。十年ほどで有効期限が切れるその薬剤の廃棄は、経費の安い水で溶かす方法が不能ということで、従来、埋め立てという形で処理されていたそうです。土壌・水質汚染の心配はないのでしょうか?

それはともかく、この会社が、それに代わる画期的な手法を開発したのです。その手法というのは、粒子を溶かすのではなく“つぶす”という方法でした。丁度すり鉢でゴマを擂るように破った殻ごと処理をする…そんな単純な着想が画期的!? つまり、これがイノベーションということなのでしょう。話にはまだ先があります。そのすり潰された薬剤に特殊な酵素を加えて、農作物の生育に欠かせない「リン酸」肥料を生成することに成功したのです。価格も既存のものより廉価で、農家からも喜びの声が上がっているようです。

さて、社長の言葉です。『私は、妥協、満足、限定…この三つの言葉が大嫌いです。』

企業にも人間にとっても、この三つは成長・発展への大きな阻害因子ということでしょう。自分自身が気づかないうちに、これらの物質にコーティングされているのかもしれないと思うと、擂り鉢にわが身を投じたくなってしまいました。